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『蜘蛛の糸』芥川龍之介


あなたがどんな悲惨な状況にあろうと、「蜘蛛の糸」はきっと天から降りてくるでしょう。それは風が吹くように、あるいは雪が降るように。


無心に祈れば、お釈迦様は人間の願いを聞き入れてくれるかもしれません。お釈迦様も本を正せば人間です。たまたま見かけた過去の善行に心動かされ、「蜘蛛の糸」を垂らしてくれることもあるでしょう。しかし、お釈迦様にできることは、ただ目の前にいる蜘蛛の糸を天上から垂らすことだけです。お釈迦様が地上に降りて、あなたを雲にのせ、天上世界に連れて行くことはありません。「お釈迦様」=「蜘蛛の糸」ではないのです。あなたが身を委ねるのは、お釈迦様ではなく、蜘蛛の糸です。そして、糸を見つけ、手繰り寄せ、上っていくのはあなた自身です。


「蜘蛛の糸」は、風が吹くように、あるいは雪が降るように、ただ天から降りてくるだけです。人の世界なら「情け」と言い換えることもできるでしょう。人の情けは、ありがたく受け取ればよいのです。情けをかけられることが、屈辱に思うなら、いずれにしてもあなたの「糸」は切れてしまうでしょう。


天上に咲く蓮の花は、万人に平等です。だから、あなただけを意図的に助けることはありません。一心不乱に上れば、あなただけではなく最初の2〜3人、もしかしたら全員助かったかもしれません。あの時、お釈迦様の情けを得て、最大のチャンスを手にしていたのはあなただったのです。


あなたがどんな悲惨な状況にあろうと、蜘蛛にとっても蓮にとってもどうでもいいことなのです。自然とはそういうものです。それでも天上では、蓮の花はいつもように美しく咲き、何ともいえないよい匂いが、絶え間なくあたりに溢れているのです。

(2022年3月5日)




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