ヒップホップを経験した時代からみた、永遠に完成しないソウル&ファンクの大辞典。
Baby, Dijon,本作はアルバム・タイトルが示すように子どもの誕生がモチベーションになっているようだ。その喜びを親のだれもがするようにできるだけたくさんの写真やビデオに収めるがごとく、ディジョンの場合は、サウンドを記録しカットアップして、一冊のフォト・アルバムを作るようにこの『ベイビー』という作品を完成させたのではないだろうか。赤ん坊のことだけではなく、誕生の瞬間に起きているあらゆる事象も素材になっている。しかし、その素材は細かく切り刻まれ、シャッフルされているため、第三者にその詳細はわからない。伝わるのは、喜び、悲しみ、愛、苦悩といった根源的な感情だけだ。まるで現代美術のようにモンタージュによって再構成され普遍性を高めたディジョンのプライベート・ライフの記録である。
ディジョンは音楽家というよりも芸術家に近いのかもしれない。それはまさにイーノがそうであるように、音楽は彼らの一部であり、表現の全体を表すものではないのだろう。音楽を素材に使いながらも、音楽固有のうっとりするようなハーモニーや激しいリズムによる高揚感ではなく、もっと普遍的なヴィジョンがディジョンの作品からは伝わる。これは自らの生活を写し撮りコラージュとして切り刻まれたセルフポートであり、大切なのはディジョンの真実を伝えることではなく、彼の作品が個々の鑑賞者の生活と重ね合わされ、それぞれ違う作品として変異を繰り返していくことだろう。
2025年