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ソウル&ファンク大辞典

ヒップホップを経験した時代からみた、永遠に完成しないソウル&ファンクの大辞典。

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Dijon / BABY

人生の一瞬を切り刻み、音楽モンタージュとしたセルフポート

ディジョン Baby, Dijon,
2025
きっと2025年を代表する作品の一つになるであろうディジョンのセカンド・アルバム“BABY”。これも同じく素晴らしい出来だった2021年の“Absolutely”はまだブラック・ミュージックのカテゴリーから抜け出そうとはしていなかったが、本作では完全にボーダレスなミュージシャンへと変貌している。ディジョンとの共通点を感じるのは、「演奏」をしないミュージシャン兼プロデューサー、ブライアン・イーノだ。彼は楽器を鳴らすことはあっても、いわゆる技術的な演奏をすることはなく、また楽器以外の全てのものを自分の音楽に取り込んで独自のミュージック・コラージュを制作した。音楽のカテゴリーにこだわることもなく、環境音楽からダンス・ミュージックまでなんでも素材を切り刻み形にしていった。

本作はアルバム・タイトルが示すように子どもの誕生がモチベーションになっているようだ。その喜びを親のだれもがするようにできるだけたくさんの写真やビデオに収めるがごとく、ディジョンの場合は、サウンドを記録しカットアップして、一冊のフォト・アルバムを作るようにこの『ベイビー』という作品を完成させたのではないだろうか。赤ん坊のことだけではなく、誕生の瞬間に起きているあらゆる事象も素材になっている。しかし、その素材は細かく切り刻まれ、シャッフルされているため、第三者にその詳細はわからない。伝わるのは、喜び、悲しみ、愛、苦悩といった根源的な感情だけだ。まるで現代美術のようにモンタージュによって再構成され普遍性を高めたディジョンのプライベート・ライフの記録である。

ディジョンは音楽家というよりも芸術家に近いのかもしれない。それはまさにイーノがそうであるように、音楽は彼らの一部であり、表現の全体を表すものではないのだろう。音楽を素材に使いながらも、音楽固有のうっとりするようなハーモニーや激しいリズムによる高揚感ではなく、もっと普遍的なヴィジョンがディジョンの作品からは伝わる。これは自らの生活を写し撮りコラージュとして切り刻まれたセルフポートであり、大切なのはディジョンの真実を伝えることではなく、彼の作品が個々の鑑賞者の生活と重ね合わされ、それぞれ違う作品として変異を繰り返していくことだろう。

2025年




Baby! - Dijon
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