ヒップホップを経験した時代からみた、永遠に完成しないソウル&ファンクの大辞典。
1曲目の“Bambu”からリューベン・ウィルソンの世界が全開。彼のオルガン、Tommy Derrick(トミー・デリック)のドラム、Melvin Sparks(メルヴィン・スパークス)のギター(このギターのユルさもまた最高!)、John Manning(ジョン・マニング)のテナーサックスだけのシンプルな構成だが、ユルさの中にも強烈なグルーヴはビンビン伝わってくる。誰もが踊れて、こんなレベルの高いソウルジャズが楽しめるなんて、今ではあり得ない。
本作でもEddie Floyd(エディ・フロイド)“Knock on Wood”とEdwin Starr(エドウィン・スター)“Twenty Five Miles”のソウルフルなカバー曲を収録。
オススメは全曲!こんなに楽しいアルバムは滅多にない。もしタイムスリップができるなら、是非当時のライヴを体感したいアーティストのひとり。しかめっ面してジャズを聴きたい人には、ただのお昼寝用のBGMになってしまうので要注意。それにしてもゴスペルやディープソウルで聴くオルガンはあんなに涙腺直撃の音が出るのに、どうしてリューベン・ウィルソンが弾くとハッピーな気持ちになって腰が砕けるほどユルくなるのだろう。
ドイツの哲学者であり心理学者のテオドール・リップスは「造形芸術と音楽においては、正確な比からの極微なずれは不可欠で、それによって均衡がとくに美しく魅力的に作用するというのが、美学上の原則である」と語っている。つまり「ずれ」があるものに人は魅力さえ感じているのだ。ちょっと真面目に考えてみると、ジャズで使用される楽器のうち音響的にオルガンはもっとも音のズレがあるように感じる。ハーモニーよりも音の揺れやズレを利用してグルーヴを起こしているのではないか。アコースティクでないオルガンは現代人が考えだした都会の民族楽器なのかもしれない。
Producer: Francis Wolff
1970年