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ローリングストーンズが訪れたのは1969年のこと。この地をソウルのメッカにしたRick Hall(リック・ホール)のフェイム・スタジオではなく、そこから独立したハウスバンド、Swampers(スワンパーズ:ジミー・ジョンソン、ロジャー・ホーキンス、デイヴィッド・フード、バリー・ベケット)のメンバーが経営するマッスル・ショールズ・サウンドだった。そこは元棺桶工場で、スタジオのすぐ横には墓場があった。当時は、まだ独立したばかりで十分な機材もなく、ヒット曲もほとんどなかったにも関わらず、ストーンズはここで録音をすることを決めた。
録音期間はたったの3日。ストーンズのメンバーの準備不足もあって、最初は何のグルーブを生むこともできなかったが、スタッフは辛抱強く、いつでも録音ができる体制で待っていた。また資金不足で本数が限られたマイクの位置を工夫するなどして、グルーブの神に降臨してもらうためのアイデアをしぼった。
最初に完成したのが、Mississippi Fred McDowell(ミシシッピ・フレッド・マクダウエル)のデルタブルースが原曲の“You Gotta Move”。南部の偉大なミュージシャンに敬意を払ったことが功を奏したのか、音楽の神は彼らのもとへ降りてきた。神の心をつかんでしまえば後は順調だった。こうしてストーンズを代表する名作“Brown Sugar”と“Wild Horses”もこのスタジオから生まれた。
「ワイルド・ホーセズ」のミックのヴォーカルは、南部のスワンプな雰囲気を出すために、わざと割れ気味に録音されたといわれているが、本当はスタジオの機材の調子が悪かっただけらしい。ミックは音質にクレームを付けていたが、「これはモニターの具合が悪いだけで、テープには関係ないから」と嘘で説得したという。
ローリングストーンズの歴史的なマッスル・ショールズ録音はこの3曲だけだ。“Sister Morphine”を除く「スティッキー・フィンガーズ」の残りの曲は、ミック・ジャガーの英国の邸宅で録音されている。また、スワンパーズは演奏をしていない。地元の人間が録音に加わったのは、たまたま現場に来ていたJim Dickinson(ジム・ディキンソン)だけだ。彼は「ワイルド・ホーセズ」でピアノを弾いている。
実は「スティッキー・フィンガーズ」に使われたマッスル・ショールズ録音の3曲は、最終的に差し替えられて、ボツになったという説もある。真実は分からないが、いずれにしてもマッスル・ショールズから刺激を受け、ローリング・ストーンズの代表作のひとつが生まれたことだけは間違いない。
ちなみにブルースの神は悪魔だとされているが、悪魔を降臨させたこのレコードは、商品として当然大量生産される。そしてこの複製品のアートワークを手がけたのがアンディ・ウォーホル。オリジナルのレコードの股間には本物のジッパーが取り付けられ、悪魔の音楽にふさわしい崇高で下品なジャケットに仕上がっている。
Producer: Jimmy Miller
1971年