ヒップホップを経験した時代からみた、永遠に完成しないソウル&ファンクの大辞典。
60年代にマイルス・デイヴィスのグループに抜擢され、多大なる影響を受けたハービー・ハンコック。『エムワンディシ』のインスピレーションの源となったのは、おそらく“In a Silent Way”と“Bitches Brew”の世界観だろう。前者ではハービーもレコーディングに参加している。マイルスの想像力は宇宙と太古の両方の世界へと広がっていたが、ハービーの場合、アフリカを意識したやや太古の世界に比重を置いた音世界を築こうとしたようだ。本作ではメンバー全員にスワヒリ語で名前をつけ、ルーツへの敬意を表している。
エムワンディシのメンバーはみんなこの作品の後、それぞれ名作を残している。かつてマイルス・デイヴィスがハービー・ハンコックに継承した音楽の魂を、今度はハービーがメンターとなってメンバーにうまく伝えることができたということだろう。“Mwile”ことBenny Maupin(ベニー・モウピン)は『ビッチズ・ブリュー』にも参加しているので、エムワンディシの魂を直接受け継いでいるといえる。
強烈なリズムはあるものの、アフロを突き詰めミクロの世界にまで突入しているので、あえてジャンルでいえばスピリチュアルジャズの部類に入るだろう。腰でグルーヴするのではなく、シナプスを電気信号で振動させる脳内でグルーヴするタイプのジャズファンクだ。
Producer: David Rubinson
1971年